1月の満月のかけたある日、姉と子供が来た。その日の夜に、雪原でソリ滑りをして遊んだ。
マイナス10度くらいだったと思う。雪が凍って、通常のソリ滑りより倍近くのスピードが出る。
月明かりがあたり一体を照らして、光を一心に浴びた雪原が輝いて眩しいくらいだった。
月を見ているとある映画を思い出す。その映画はムーンライトという映画で、個人的にこの10年間で1番素晴らしかった映画だ。
ムーンライトは実際にあった話を寓話化したもので、主人公シャロンは貧しい家庭に生まれた。母親は麻薬中毒者で、子育てはできない状況だ。
そんな中で母親にドラックを売っている男は、シャロンの境遇と自分の過去の境遇を重ね合わせて同情し、シャロンの事を常に気をかけ、そして母親にドラックをやるなと言う。
この映画を見て、ピンときた事がある。このシャロンはギリシャ神話のシャーロン、あるいはケイローン にあたる。ギリシャ神話でケイローン は癒しの神、あるいは傷ついたヒーラーと言われている神だ。かつての全能の神、クラノスの子孫になるが、ケンタウロス 同様、半身半馬で生まれたため捨てられてしまう。
そして闘争心が強いケンタウロス族からも、嫌われて孤立している状況なのだが、太陽の神アポロンと月の女神アルテミスに育てられ、医学、狩猟など学び、人々のために尽くす。
孤立してうまく自分を表現できない少年とギリシャ神話のシャーロンを掛け合わせた物語は強く心をうった。
勢いよく後ろからソリを押して、一気に滑り落ちていく。子供の笑い声が響き渡る。
ふとムーンライトで父親代わりでシャロンに泳ぎを教えるシーンを思い出した。
海の中で泳ぎを教えるシーンは、洗礼のようにも見え、そして海を泳いでいこうとする場面は神話の世界においても、ストーリーの世界でおいてもこれから起きるであろう悲劇を暗示するようでもあり、ただ涙した。
海は時に母として、あるいは涙の溜まった泉という象徴として描かれる。
シャロンは泳ぎ出した。
光に輝く雪原。雪という記憶を照らす。その上をソリは勢いよく駆けてゆく。笑い声がこだました。
海でシャロンは振り返る。アルテミスという、母親の光の下で。あのピアノの音が、頭の中で響いた。
