下の子を寝かせる時に、必ずかける音楽がある。
よくビニール袋がこすれる音を聞かせると、赤ん坊は落ち着くというが、なるほど泣いてる時にこすると確かに泣き止む時がある。
あのビニール袋がこすれる音は大人にとっては耳障りなだけだが、そのこすれる音に近い曲はないか、と考えた時に、oneohtrixpointnever、ワンオートリックスポイントネバーのtrance 1、physical memoryと立て続けに聞かせると、いつも決まったところで眠りにつくのだ。
毎回聞かせるから寝るのか、それとも楽曲に催眠効果があるのかはわからないが、高確率でほぼ同じポイントで寝る。もちろん、前提として眠くなっている時に聞かせるという事が大事なのだけど。
今日、昼に妻が長男の面倒を見てる時に、俺が抱きながら寝かせたのだが、やはり同じタイミングで寝た。
しかしふと胸元から離れると、フッと一瞬悲しげに少し泣いて、パタンと眠りに入った。
そんな事が時々ある。
それは眠りにつくのが怖いというふうにも見えるし、置いていかないで、と泣いてるようにも見える。一瞬の事なのだが、大きな戸惑いをおぼえる。
そして深い眠りにつく。
その時にこの音楽をかけてると、意識が向こう側の届きようがないところに行ってるような心境におちいる。
意識とはなにか。
夜、見回りがてらカメラを持って月を撮ろうと思った。
濁りきった空の中でしばらく待つ。川には雪解けの水がまだ流れていた。流れる音を立てて聞いてると、月よりもそちらに意識が傾いた。
雪は実体はあるが、やがて水となり、そのあと気体になる。人間とは違うが、しかし人間も実体こそあれど、60億もの細胞で形成されており、数ヶ月に一回は細胞は新しく生まれ変わる。
一つの者にして、60億もの細胞の形態。形あるものは全て一つだが、実は部品によって作られていて、バラしてしまえば、そこにはなにもなくなる。
存在とはなにか。無限を収束した形なのか。だとするなら他者とはなにか。空に浮かぶあれはなにか。
洞穴にこもった男は無我の境地で、唯識の思想を持に帰り人々を幸せにしたが、今日もまた月を撮ろうとする男を置き去りにする。
だが一瞬、晴れ間が見えて月は写せた。
trance1をヘッドフォンで聴いた。メロディーがフィボナッチ の螺旋階段を駆け上がり消えていく。
家の前で最後に月を確認した。
もうその時には月は見えなくなっていた。だが音の向こう側で起こる事象は確認できる。
少なくとも明日は目が覚める前に、無限が拡がっている事は確かなのだろう。