朝、子供を連れて急斜面の場所に行った。ソリに2人の子供を乗せたが一歳の次男は抱っこしてと泣いて、結局ソリ出て4歳の子供を引っ張りつつ、片腕で一歳の子供を抱っこして歩いたから大変だった。
しかしそれでもソリを滑っている時の笑い声は、なによりも心を和ませてくれる。
マギー ロジャースの軽快なポップソングをかけた。太陽の光にて眩しい雪原と透き通った青空が、彼女の曲を惹きたてた。
アラスカという曲を口ずさむ。
あなたと昔の自分からお別れして/それが夢だったら/それができたら。
アラスカで育って、その代わり映えしない日常にウンザリしつつ、まばゆい世界に焦がれながらも、その畏怖の念すら感じる美しい自然のアラスカと自分からは離れる事ができない。
そんな曲だ。
この子達とて、それを感じる時は必ずくる。でも人は新しく生まれ変わる事はできない。そして離れれば離れるだけ、笑った事がたくさんあるだけ、故郷への望郷の念は募っていく。
ひとしきり遊んで家に帰ってきて、車を移動すると、緑が出てきた。子供は草をむしって、なにやら喋っていた。
近くの庭に生えてるバラを見た。
お前はなぜ、この時期に花を開こうとするのか。なぜ暖かい時期ではなく、今なのか。
先ほど、黒澤明の特集をテレビで見ていた。黒澤明の映画は全て見ていて、大ファンだ。写真が趣味だと構図やどうやって撮っているか、とても気になるのだけど、黒澤明は望遠レンズで撮影していて、いまだに信じられないシーンがあったりする。
黒澤明は天国と地獄のラストを差し替えた。この事実にとても驚いた。それは山崎努さんの演技の気迫だったという。
あの雲が気に入らないと空の撮影を平気で一ヶ月延期したり、予算をオーバーしようが、何食わぬ顔で上層部なんかとケンカしたり、馬に踏まれて死体役の人がたまらず飛び起きたら、動くなと怒鳴りつけるような徹底した美学を持っている黒澤明が、映画初出演の山崎努さんの演技に影響を受けたとは。
山崎努さんはインタビューが心にに響いた。
あの時の演技は正直、上手いとは言えない。今ならもう少し上手く演技できると思う。しかしあの当時、25歳の私にしか出来ない演技だった。それは今の私には無理だ。だからあれで良かったと思う。
外に出てバラの花を見た。冷えた空気によって花びらご凍っていた。風が吹いていて、写真に撮るとブレてしまう。
撮った写真をみると、それは寒さで震えているようにも見えた。
ヘッドフォンを装着してdj shadowの曲を聴いた。shadowが映画スクラッチで言っていた事を思い出した。
この地下にあるレコードはみんな、日の目を見れなかったレコード達だ。
とても良い作品なのにほとんどが売れず、評価もされず、この地下で暮らしている。ここにいるととても落ち着くんだ。俺もその1人だと思うんだ。
曲のメロディーは哀愁があり、ピアノの音はシンプルで美しく、ドラムの音は、誰もいない地下のような暗がりの夜に、前へ前へと進ませる。
バラは震えながらも人知れず、生きている。