幸運にも爆弾低気圧の被害はなかった。全国各地で猛威をふるったみたいだが、なんとも重たい年明けだ。
低気圧が来る前に、行けるところには行っておこうとある場所に行った。おそらく写真撮影を趣味としてる人ならば、誰もがこんな場所に行きたいだろう。
無論、写真を撮りながら、1人でその先に行けるかどうかは、試される事になるのだけど。
ここから先は立ち入り禁止区域。かつての道路がずっと続く。
釣りを楽しむ人はたまにいるし、2人ほどサクラマスを釣りに来ていた人がいた。
俺もかつてはよく来てヒラメなどを釣ったりしたが、基本的に好んで来る人はいない。夏は熊もよくいる場所だ。
その廃路を歩く。すさんだ風と、荒ぶる海の波の音が、景気良くお出迎えしてくれた。
だが切迫感がとても好きだ。カメラをかまえる。
破壊された道を乗り越え、細いトンネルを抜けてゆく。
トンネルの中でカツーンカツーンと靴音が響くにつれて大事な何かを落としていくような気がしたし、戻った方がいいのではないか、というささやきが脳内で響いた。
おそらくキツネであろうその足跡がずっと続いていた。エサなど何もないのはわかっていながら、それでも飢えには叶わず、さまよっていた。
2キロは歩いたろうか、人も通らぬこの道を歩いていると、カモメが警戒しながら頭上を飛んでいく。誰も通らぬこの道に、一体何をしに来たのか。カモメは飛びながら確認していき、向こうに消えていく。
果ての風景は荒んでいく一方で、人間が暮らしていくのは困難だというのが、マイナス10℃の気温を乗せた凍てついた風と荒ぶる海の波の音で、実感できた。
手が寒さで思う様に動かなくなってくる。吹く風が頭の中にまで染み込み、痛みが走ってくる。しかし何故かそれでもこの果ての向こうに行ってみたい衝動は抑えきれず、歩みを止める事はできなかった。
息を切らしながら歩いていくと、向こうの海にカモメが飛び回っていた。
それはささやかな予感だった。
歩を進めた。