旧道、廃路を4キロ近く歩き、そして戻ってきたが、足早に歩いても1時間はかかった。15時半は回っていて、帰ったら休憩することなく仕事に取り掛からなければと思った。
振り返って海を見た。ファーストショット、最初の一枚目はここからの眺めだった。日は暮れて、太陽から雲が噴き出てるかのように見えた。
カラーか、あるいはモノクロで撮るべきか。一瞬迷ったが、それぞれモードを変えて一枚ずつ撮った。
この地を去る前に、どうしても海に太陽の光が劇的に落ちてる写真を撮りたかった。だが自然はそんな気の利いた事はしてくれない。
果てに行こうがそれはお前の勝手であって、期待に応える必要はない。
ファインダーを覗きながらその時を待ったけど、そうだよな、と思いつつシャッターを押した。
車に乗り込み、帰路へ。行きかけにあとで撮ろうと思ったポイントに車を止めて、写真を撮る。
もうこのトンネルのくりぬいた光窓から氷柱がぶら下がっているだけで、何かを暗示してるような写真になる。
行きかけの時から、最後に撮ろうと決めていた。
工事標識が落ちた看板。
まるで額縁だ。その額縁から最後に撮る風景はどんな写真になるのか。そんな事を思っていた。
最後に撮った写真は、いつもと変わらないの冬の海だった。
シャッターを押して少し眺めた。
どうやったらいいのか。額縁におさまらないような写真をどうやって撮ればいいのか。
叫ぶ海と、痛みが伴うような風。一瞬で消し去ることができる自然の猛威と、気づかぬうちに享受している身に余る恩恵の数々。誰もがインスタでアップするような有名な場所の写真は、正直あまり関心がない。
額縁におさまらない写真を撮るにはどうしたらいいのか。海の波が押し寄せ、こっちに来いよ、お前を飲み込んでやる、と脈打っているように見えた。
車に乗りこむ。burialのashtray waspという曲をかける。
この風景の中を走っていくのにとてもあっていた。音を大きくして、意識とスピードを飛ばして走り去った。