暖かくなってきて、雪が溶けて氷柱になる。まだ冬の途中だが、すこしずつ春の風が吹いてきた。届かぬ南の地方では桜も咲いたという。この北国との落差は大きいが、それでもすこし春を感じるようになってきた。
氷柱をスコップで事あるごとに崩しておいた方がいいのだけど、暖かさが続くと、氷柱自体も溶け始めるのでそのままにしておいた。こうやって写真も撮れるし、こういう景色は見た事がない人の方が多いと思う。
朝の光に照らされて氷柱が眩しく、ちょっとした照明になり、外の景色が違った風景に見える。
この雪や氷は、春になれば全て水か雲や風になり、俺の前から消えていく。
雪という姿も、風や雲も、あるいは水も本当の姿であり、本当の姿ではない。
人間という存在はどうか。さまざまな臓器や肉、骨で作られた複合体だ。一つ一つ解きほぐすと、何も残らなくなる。どれも本当であり、どれも本当の姿ではない。
氷柱の隙間から差し込んでくる陽の光を見ながら、少し漂った。
見事な逆氷柱を見つけた。水滴が一滴一滴、重なりそれぞれが自立していた。これから朝日を浴びる事になる。そうすると、積み重ねてきた事が、瞬く間に崩れていき消えてゆく。
その時に陽の光の強さを感じる。
一つ一つが、水滴のように身体の中に落ちてゆく。確かに積み重ねてきてるつもりなのだが、実感はない。
スマホが鳴り、人間社会に戻る。もう少し生きやすい筈なのだが、どうしたらいいのか、いまだにわからない。