隣町で会議が終わってから、少し写真撮影しようと砂浜に行った。
あれだけ雪が積もっていた砂浜も雪解けが進んでいた。
一月にここの砂浜を歩いている時だ。
ふと目をやるとキツネが何かを引っ張っていた。近づいても気づかない。よく見ると、そのキツネは痩せこけていて、風前の灯火に近い状態だった。
そしてキツネが引っ張っていたのは全長1メートルくらいのオオワシだった。生存競争に負けて海に落ちたのを、キツネはくわえて引きずっていた。
キツネは殺意の目で俺を見た。この獲物は俺の物だと。息絶え絶えの状態の殺意の目ほど説得力のあるものはない。
しかし海に落ち、さらにマイナス15度の風にさらされた死んだワシは、すでに身体の芯まで凍りついていてキツネの歯ではどうしようもないだろうという事は、自然の中に生活してる者なら誰でもわかることだ。
キツネは食らいつき、しかし胃の中になにもたいらげる事も出来ず、虚空を見つめる事になるだろう。
ふと空を見上げると、空には大きな十字架が浮かんでいた。全長2メートルにもなるオオワシが、キツネの上空を旋回していた。
キツネは十字架を引きずり、最後の晩餐にありつけずに波打ち際で、十字架によって命を堕とす。
その場を離れてマイナス15度の、死が乗った風の中を歩いた。この風の中では、人生を生きていく上で必要な鎧も、思考も感情も吹き飛んでいく。
この死の前では、何もかも無意味だ。全てが吹き飛んでいった時、海辺に漂着した浮き球を見る。
繰り広げられる事象を、ずっと見続ける浮き球が自分に思えてくる。
穏やかになった漁港と海辺を歩いた。
もうあの死の風はどこかへ行き、オオワシはシベリアに向かってとうに羽ばたいていった。
歩いていると、白い浮き球を見つけた。白い浮き球を蹴っていると、やがて波に乗ってゆっくりと漂いはじめた。
白い浮き球は大海を漂っていく。冬に終わりを告げる。
フランクオーシャンのpink +whiteを聞いた。
ゆったりとしたメロディは誰の思い出とも重なるはずだ。ループしても聞いてもメロディは途切れない構造になっている。
そして最後にフランクはこう言う。
これが俺の人生だ。永遠に続く人生なんだ。
浮き球は大海を漂い続ける。
永遠に。
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