晴れた月夜ではなく、曇っている時の状態の写真が撮りたかった。
明るい月夜はモノクロで撮ると、昼間に撮り撮るのとではあまり差がわからなかったりする。
雲が流れ、月が隠れてて明かりが閉ざされる時の写真、あるいは暗がりから月が出てくるときの写真の変化が楽しい。
そして暗がりから月の光で明るくなる過程を実感できるというのを意識すると、とても心地よい気分になる。
成れの果てのような岩を写し、近くの高台にて海の波を写す。のたうち回りながら苦しんでるようであり、その逆に怒りに満ちたような波のぶつかりに心を奪われる。
何度となくその瞬間を撮ろうとしたが、月が雲に隠れて光が足らず、違った絵ができてしまう。
気にいるまで撮ろうと思ったが、こだわるあまりに時間を無駄にした気がした。
車で走るとやけに方向指示の標識が良く見えた。暗く立ち込める雲の夜に、それでも方向指示が進めと言っている。
いい絵だ、と思った。
車を走らせながらdj shadowのアルバムを聞いた。初期のアルバムは様々なレコードの音を組み合わせて作られたアルバムで、とても好きなアルバムだ。
特にこの曲を聞きながら道路を運転してると、この夜中のさびれた景色と同化して美しく響いた。
音と風景の中を走って行く。
雨が降ってきて撮影を中止した。目的地に行っていびつな岩を撮りたかったが、波をかぶっている可能性があって危険だと判断した。
帰りにある写真を撮った場所が気になって戻った。ミラーの反対側から撮ってみた。なぜだろうか、不思議と気になった。こんなに寂れた場所のミラーがやけに魅力的に見えた。
曇り空にたたずむ鏡。空を映すわけでもなくひたすら同じ地点だけを映している。
そこはまだ雨が降っていなかった。写真を撮り車を走らせた。
dj shadowのblood on the motorwayがかかる。音を大きくして走り抜ける。
横殴りの雨がフロントガラスに叩きつける。
アクセルを踏んで、雨で見なくなった景色と曲の音の狭間を駆け抜けた。