階段を登り見渡してみると、あいかわらず小さな駅だと再認識する。
寒さが肌に刺さってくる。ジャンパーを持ってきたというのに、車に置いてきてしまった。久々に集中して写真が撮れるという事に、なんだか胸は躍っていたのは確かだ。
ただ今回は下見できた。キハ40がどのように停車するか、雰囲気はどうか見にきた。この駅の側面は急斜面がある。この急斜面には草がおおい茂っているが、冬になると雪の下だ。
つまり急斜面から駅全体を撮れる事になる。
静かな無人駅。なんだか心が落ち着く。
どこかの上の方から拡声機で列車が入ってくると聞こえてくる。
ここで想定外の事が起きた。キハは構内に全てが入らない位置で停車した。つまり、キハ全体が写らない事になる。苦笑いしながらまいった、と思いつつ窓から顔を出した運転手に、行っていいよ、と手で大きく合図した。
、
なんだか下調べとはいえ、収穫が少ない気がした。寒さが身体を蝕む。
ほんの少しの工夫と、いつもの視点の位置を変えて、なんらかの記憶に残るような写真は撮れた気がした。信号が変わらず車優先の青のままで、ボタンを押さないと変わらない横断歩道。
蜘蛛の巣の写真を思い出した。
気長に待つ気はない。ボタンは押さずに車が来ない道路を渡った。
潮風が海の匂いを運び、海が近くにある事を感じた。
車に乗り込み、真っ黒な海を見ながら車を走らせた。赤信号で車を停めて窓を開けた。
海を感じる事はなく、コンビニの眩しい光が、周辺の透き通った暗がりを、打ち消していた。