夜に犬にあげるドッグフードを切らしている事に気づき、買いに行った。帰りに八雲駅に寄って、普通列車の時刻表をとってキハが何時に山崎駅に来るか、チェックした。
ギリギリ間に合うか、間に合わないかという事がわかった。一か八かに賭けて、無人駅の山崎駅に向けて車を走らせる。
山崎駅に着くと、カンカンカンカンと威勢の良い警告音が聞こえてきた。カメラと三脚を持って走り、着いた時にキハはついた。準備ができてない状態で写真を撮り始める。するとキハは、列車は動き出した。
笑うしかなかった。
上りのキハが長万部の方に向かって走って行く。すると今度は下りからキハが八雲駅に向かって走ってきた。
ここはキハがすれ違う唯一の場所だ。線路を渡り撮影しようと思った。レンズを55ミリに変えたかったけど、もうその時間はない。
そのまま16ミリで撮影を開始した。
結局、うまく撮れる事はなかった。光の調整も何もできなく、満足がいく撮影とは到底言いがたい。
しかし今年一発目の撮影だったからなんだか嬉しかった。キハには三人くらい、乗客がいた。
男性客は一瞬こちらを見て俺を確認して、そのまままた本を読み始めていた。見た感じは、くたびれていた様に見えた。
雪が降り始めて、それがやけに美しくて。スローモーションに落ちてくる雪は、明かりに照らされて落ちてくる雪は、普段届かぬところにまで、俺の奥深くにまで届いた。
夢中で撮影をした。
最後の一枚を撮り終え、少し眺めた。列車はこの日も時代と人を乗せて、この無人駅を通り過ぎて行った。
雪は降り積もってゆく。この日は珍しく静かに美しく。その雪はやがて溶けて水になり、風になり、また雪となる。
時代に振り回される事なく、その循環は続いていく。頭の中でトムヨークとフォーテットそしてブリアルの3人が作った曲が鳴り響いた。
頭や肩に降り積もった雪を手で振り払う。
そして止まった時間の中を歩き出した。
車の中で、彼らの曲をかけた。音が雪のようにゆっくりと落ちてくる。トムヨークが歌い出す。
音量を上げて、落ちてくる雪の中を、車は走って行った。