青々とした草が勢いよくのびている。それはいつもあっという間に訪れて、こうやって書き記してみると、驚かされる思いだ。あれだけたらふくあった雪が少しずつ、次第に、そして一気にとけて消えてしまったのだから。
子供達は勢いよく走り出して傾斜地に向かう。犬は追いかけて子供の後を追い、やがて追い抜き喜んで何周か子供の回りをまわって、そのうち森の方へ走ってゆく。
小学生の長男は得意げにソリの上に乗って、スピードを上げて滑っていき、その時を堪能する。
3歳だった次男は少し怯えながら、しかし2回3回と滑ってるうちに慣れて奇声を上げて滑ってゆく。
スターウォーズのなんとかと言って銃を撃ちながら滑ってゆくと、いつの間にか現れた犬がソリを追いかけていった。
夜はさらにスピードが出る。寒さによって雪は凍ってその上を滑ると、スピードは昼間に滑るよりも倍のスピードが出るくらい速い。子供が喜ばないわけがない。
月明かり一つ、その明るさだけで雪原はまばゆくなり、またその雪の特性によって周囲の音は雪によって吸収されて、周囲は本当の静寂に包まれる。
子供の奇声とソリの滑る音だけが周辺にこだまする。月が雲に隠れる。その瞬間、周囲は暗くなる。子供は雲に向かって撃つ仕草をする。
もっと明るくしてくれ、と。
そうやって子供達は冬を過ごしてきた。かつての自分も。
その雪跡を写真に撮るのはとても嬉しい。なんだかその雪の跡から子供の声が聞こえてくるような錯覚をおぼえるからだ。物音一つしない、マイナス10度近くの景色の下、その空気は青白くてその酸素を身体にとりこみ続けると、不思議と意識が違う世界に潜りこむような気分になったりする。
それなりの写真が撮れたと思う。
今現在、この春に勢いよく吹く風はまだ寒く、それはとけた雪の青白さをはらんでいる。それを身体にとりこみながら作業をする。
その風は冬の記憶を蘇らせながらも、前へ前へ前進させてくれる。
春だ。