牛達は勢いよく外に出て興奮して歩き回る。ようやくこの日がきた。この日を待っていたと言わんばかりに。しばらく様子を見てだいぶ落ち着いた時にゲートを開けた。牛達は一気に山の方へ、放牧地の方へ急ぎ足で向かっていった。
写真を撮り、かなり疲れていたのでその場でうたた寝をした。さながらアルプスの少女ハイジに出てくるペーターのようだな、と思いつつ帽子で顔を隠して陽射しをさけつつ、やがて薄い眠りについた。
15分くらい寝たろうか、そうすると牛達が寄ってきた。夢中に草を食べていたが落ち着いたのだろう、暇になって近づいてきた。知らぬふりをしたら鼻でこづいて私をなでなさいと要求してくる。
牛は時々顔をあげて風を感じていた。風の匂いを嗅いで、耳をそばだてて、何かを聞いていた。
牛達にとって、風の匂いはどんな匂いだろう。耳をそばだてて、一体どんな音が聞こえたのだろう。
ふと思いつつ写真を撮る。
夕方16時、帰るぞと言って先頭を歩いた。慌てて牛達がついてきた。後ろを見ると2頭ほどついてきてなかった。
何やってんだ。帰るぞという大きな声を出した。2頭の牛は顔をあげたが特段気にせずまた草を食べ始めた。
やれやれと思ったが、そのままにしてきた。その2頭は春を満喫していた。
風はまだ冷たい。冬の名残りを感じる。だがその空は清々しく、どこまでも透き通っていた。
広々とした草原と空の下、春の中を泳ぎだす。