12月の末のある砂浜の風景。海辺だから風当たりは強く、目を開けてるだけでも涙が出てくる。この日は確かマイナス9度だった。
ここの砂浜は好きだ。ゴミが散乱してすさんでいるが、どこかこの世の果てを思わせる。一度夜明けに訪れて写真を撮ったが、陽の目が出る時の瞬間はとても劇的だった。
この世の果てにも太陽は静かにのぼる。
果ての象徴的な二つの木はもう倒れていた。その形を見るとわかるが、いびつだがとても主張があった。誰かが倒れないようにと木をあてがっていた。
人間の社会の音は聞こえない。ただ波の音と風の泣き叫ぶ音が耳にこだまする。未だにその音は消えずに頭の中で響き続けている。
あの死を象徴する木は、もうなくなった。すさんだ光景の中で佇むあの木を撮りたかったのに、もうなくなってしまった。
いつかその日は来るとわかっていた。夢物語が終わったことを実感した。単に夢を見ていたかっただけだ。ごく当たり前の砂浜に、木があっただけだ。
倒れた姿を見て触れた。風が轟々と耳元で響いた。
砂浜から少し離れたところに廃墟が見えた。そこに向かって行こうと思ったが道はなく、諦めた。その家の佇まいからも、苦労は尽きなかった事はうかがい知れた。
車に戻りエンジンをかけ、少し窓を開けると風の音が聞こえた。まだ風の音は叫んでいた。
音楽をかけてまた世界を創り上げる。車の外側の世界に少し聞かせたかったのかもしれない。
ピアノの音が美しく響き来た道を戻った。
家に向かって。