海へ。
寒さに凍えながら岩場に登り、向こうにそびえる風車を見た。
全体が見渡せてここだ、と思う。波が浜辺にうちつけるのを待ちシャッターを押す。
一枚もう一枚、そしてもう一枚と写真を撮った。後ろの方で飢えたカラスが鳴いていた。
風が冬の終わりを叫び、飢えたカラスは鳴き、全てを飲み込んだかのような海の波が、けたたましく怒り狂ったかのように砂浜に駆け込んでくる。
満足できる写真は撮った気がした。寒さに震えたが、それでも満たされていて心地が良かった。
まだ写真は撮りたくてあたりを散策した。巨大な流木を見つけた。
この流木がどうやって流れ着いたのか、想像しながら写真を撮った。でもどうやっても考えが至らない。こんな大きなものがどうやって。
打ちつける波を見ながら木が流れてくるのを想像しようとしたが、陽の光が水面に輝いているので、その美しさに目を奪われてどうしても想像ができなかった。
疲れて別の木の根に座った。カラスは俺に向かって罵声を浴びせ続けていた。ここは俺たちの場所だ、出て行け、さもなくば何か食える物をよこせ。
頼むから何か食える物を。
ゴミが散乱して荒んだ風景に、ここから生物が這い上がって今まで生命を繋いできたのかと思うとため息が出る思いがした。
カラスはなおも吠え続けた。
荒んだ砂浜の向こう側で海に陽の光が輝いているのを見ていると、カモが空を飛んで行くのが見えた。風に乗って鳴きながら美しく飛んでいく。ハッとして写真を撮った。彼らは風をつかんだのだ。
後ろを振り返りカモが見えなくなるまで見ていた。そしてしばらくして、立ち上がり歩き出した。
カラスが吠える。
どこへ行くのか。どこへ行こうとしてるのか。このまま見捨てるのか、このまま、、
そんな風に聞こえた。
車のドアを閉めると風の音は止み、震えが止まる。
エンジンをかけて車を走らせる。
Joy Orbisonの音楽がかかる。お気に入りの曲をかけていく。もうカラスの声は聞こえなく、あの冷たいトーンの美しい曲ばかりが、心に響いた。