北海道室蘭は地球岬へ行った。まだ冷たさが乗った風が吹き荒れていた。人はまばらで観光客はそんなに来てない感じがした。
子供達は疲れ気味だったが、高い所からの景色ではしゃいでいた。
そのあとイタンキ浜という所に行った。広がる砂浜を踏み歩くと音が鳴るというので有名な場所だ。
まだ寒くて海の波は荒く、潮が舞って霧状になり、向こうの景色がおぼろげになっていた。
砂に注目する者はいなく、皆、海へ向かって歩いた。
かつてこの街で育った人は、世界へ飛び立ち、やがてこの地に戻り、また旅立った。
海の波の音がこだまして頭の中で響く。子供達は喜んで波打ち際を走る。
おそらく過去の人も同じ事をしただろう。
そしてこの波の音を聞き、その静かで何度も何度も寄せては返す波の壮大な音が頭の記憶の中で深く深く刻まれ、どんなに遠くの世界に行っても、行けば行くだけ、記憶の奥底からその波の音はその人自身の声として呼び覚まし、人生を強く歩ませたはずだ。
子供達は知らずにその人の記憶の中で遊んだ。
雪がとけて水は濁り、冬の名残りがまだ残る海だったが、確かにそれはその人と共にいた海の憧憬だ。
しばらくして帰ろうと言った。子供達はしぶったが、やがてこちらに向かって歩き始めた。
お互い、ここが境界線だ。旅立つ者と現実世界を歩む者。
遠くになるにつれてその波の音は静かになっていった。
だが目をつぶり、少し振り返るだけでその波の音は聞こえてくる。
子供達の手を握り、また歩み始める。